「平波亘福袋」セルフライナーノーツ

新型コロナウイルス COVID-19の影響によって、全国に非常事態宣言が発令され、自粛生活を余儀なくされて一ヶ月以上が過ぎた。全国の映画館も営業自粛状態になり、映像業界で働く人間たちも仕事を失った。彼らを雇用する制作会社、配給・宣伝会社の経営も、今もなお厳しい状態が続いている。そんなさなか、ミニシアターの経営危機を支援すべく、SAVE THE CINEMA運動が立ち上げられ、ミニシアター・エイド基金が設立された。現状の危機をいち早く察知した映画監督たちにより立ち上げられたその運動は、さまざまな形で波及していった。自作を動画サイトで無料公開したり、ZOOMアプリを利用したテレワークによる作品製作をするものも現れた。「架空の映画館」や「STAY HOME MINI-THEATER」といったプラットフォームで、ミニシアターの支援をしながら観客に最新の映画をシェアしたり、過去の傑作・名作・迷作をサブスクリプションやソフトで見直す人たちも増えた。敢えてポジティブに捉えるならば、このコロナ危機によって映画を愛する人間たちの繋がりは一層強靭なものになったようにも思える。ただ、すべてはコロナ後の世界がどうなるかだろう。誰もが何一つ楽観視などできないまま、自分たちの手で出来ることを一所懸命やっているだけなのだ。自分は「自分にできることは何か」と考えながらも、今の己を自分が信じたこの場所でしっかりと踏みとどまらせることが大事だと思った。私たちがお互いの手を差し伸べ合っていくこと、今の時代はそれが見えやすくもなってしまったけど、その気持ちは今もこれからも続いていく。

 

今から約一ヶ月くらい前、加藤綾佳監督から「配信で映画祭をやりたいんだけど参加しないか?」という打診をいただいた。結果、この配信映画祭2020には、総勢18監督が参加することとなり、合計30本近い作品が配信されることとなり、5月1日から今日に至るまで、オンラインを賑わせている。声をかけられたばかりの当時の僕は、自作で配信したいと思えるものが浮かばなかったこともあり、返事を保留にしたまま若干の放置をしてしまった。そのあいだ、僕は自分の家にあったハードディスクをほぼ全部引っ張り出して、自作をひたすら見直すという半ば自慰行為にふけっていた。長編と短編合わせて約20本ほど見返した結果、今回の3本を「平波亘福袋」として配信するのに至ったのである。『ワールズエンドファンクラブLP』は編集すら終わっていなかったものだったが、「今回この配信映画祭に参加するのであれば、どうしてもプレミア性の強い作品を上映したい。だって映画祭ってそういうものだろ?」という強い思いがあって、本当に急ピッチで編集・仕上げ作業をすることになり、間に合いの関係上、他の参加監督たちには本当に申し訳ないのだけれど、2週間遅れの配信開始とさせてもらった。この場を借りて、改めて謝罪と御礼を申し上げさせていただきます。

 

「平波亘福袋」は5月14日の19:00から、5月20日の23:59まで購入可能となります。¥500です。購入してから72時間ご視聴可能となります。こちらのページで予告編も見れますので、よろしければチェックしてみてください。
https://vimeo.com/ondemand/haishin1801

 

以下で各作品についても少しだけ説明させていただきます。

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『ワールズエンドファンクラブLP』

World's End Funk Love(Long Praying)/ 2020 / 35min

 

1年前の4月30日、平成最後の日に撮影した作品です。元々は「平成最後の日に映画撮ろうぜ!」という、監督や俳優が集まって製作されたオムニバム[#平成最後映画]の一編でした。最初、この作品を思いのままに編集した時、尺が35分になってしまい僕は心の底から焦りました。[#平成最後映画]ではオムニバス映画という特性上、どうしても作品尺を15分に収めなければならなかったのです。それならばもう15分版は全然違う感じにしてやろうと決意し、総勢17名による群像劇を無茶な情報量とスピードで駆け抜けるものに仕上げました。その[#平成最後映画]の15分バージョンを便宜上「EP版」と呼びます。

 

「EP版」の編集では、泣く泣くカットしたエピソードや台詞、情感というものが多々あり、そういう要素を全部復活させ、より登場人物一人一人の造詣が浮かびあがるようにまとめ上げたのが、今回の35分バージョン、通称「LP版」になります。

 

ワールズエンド=世界の終わりという、今の時代に全然笑えなくなった概念に支配された人間たちのお話です。彼らはインターネットを通じて、ある音楽家に自らの心の声を届け、その音楽家はそこからまた新しい音楽を創造します。その音楽家は自らを「少年発電機」と名乗り、彼らが集うプラットフォームを「ワールズエンドファンクラブ」と呼びました。この映画は、そこから生まれる音楽に浸る彼らの生活を綴ったA面「WORLD'S END FUNCLUB」と、彼らが集うこととなるある夜のイベントでの出来事を描いたB面「WORLD'S END FUNK LOVE」から構成されています。昔、ある映画館の支配人が自分の作品「トムソーヤーとハックルベリーフィンを死んだ」を観て「小さな孤独が集まって大きな熱を放ってるみたいな作品」と仰ってくれたことがあり、この作品もまさにそういう熱を伴い、浸透してほしいという願いを込めました。人人との距離が曖昧になってしまったこの世界に。ソーシャル・ディスタンス?ふざけんなよ。

 

キャストのほとんどはオーディション形式で選ばせていただきました。全く初めましてのフレッシュな若手や、過去に助監督現場でご一緒させてもらった方々、存じ上げていたけど初めてご一緒できた人など、オーディション時の印象や、準備中の限られた時間の中でのディスカッションで当て書きをしてキャラクターを作りました。後半のクラブシーンに出演してくれた客役のみなさんも、お忙しい中時間を作ってもらって現場に参加してくれました。とても感謝しています。

 

撮影は平野晋吾さん、音響は黄永昌さん。撮影時の無茶苦茶なスケジュールや、今回の急な仕上げスケジュールにも嫌な顔一つせず笑顔で対応してくれて(想像です)、素晴らしい画と音の世界を作りあげてくれました。「少年発電機」こと音楽は三島ゆうさん。EP版でも膨大な量の楽曲を提供してくれたのですが、今回のLP版でも僕の追加リクエストに快く笑顔で(妄想です)応えてくれました。今回、ネット環境でのお披露目になりますが、ぜひ出来るだけ大きな画面と音量でお楽しみいただければと思います。

『トオルとアキラ』

Transparent Friends / 2012 / 31min

 

あれは2011年の夏のこと、「みんなで新潟に旅行に行きましょう」と誘われました。役者やってる野郎ばかり5〜6人のメンバーを見たとき僕は思いました。「これは映画が撮れるな」と。3泊4日の旅程だったのですが、僕はみんなに「俺に2日だけくれ。それでみんなで映画を作ろう」とお願いをしたのです。かくして車一台に男9人で乗り込み、楽しくなるはずだった新潟旅行は結果全日程が撮影になるという地獄のバカンスに変貌したのでした。

 

もともと映画で一度、天使ものをやってみたいという思いがあり、ずっと構想していたものでした。人間界で増発する自殺を食い止めるため、二人の天使が奔走する姿をシリーズ形式で描いていこうと思っていました。2020年現在、いまだこの作品で描かれるエピソード0「飛び降り自殺を阻止しよう」とエピソード1「集団自殺を食い止めろ」しか製作できていませんので、今回どなたかこの作品を気に入っていただければ是非お声がけください。ちなみにトオルとアキラというネーミングは「透明」からきてます。

 

キャストは僕の友人のピン芸人・豊岡ノリトが天使のトオル役、ENBUゼミナールの後輩で映画製作仲間の松尾圭太が天使のアキラ役、集団自殺メンバーに橋野純平、細川佳央、安本智、二ノ宮隆太郎らが扮し、飛び降り自殺をしようとする若者を佐川誠が演じています。そして天使と争う死神役に宇田川大介が最高のパフォーマンスを魅せてくれてるので是非ご注目ください。

 

撮影は僕が下手くそなカメラをぶん回しております。録音はエピソード1が味澤幸一郎さん、エピソード0が今井真くんです。今回の配信上映に際して、映像素材を元から引っ張り出して再編集を施しました。

 

ハートフル・ファンタジーと銘打っておりますが、ブラックコメディ的な要素もあり、こうやって人の生き死にをフィクションで扱うのにも、つい神経が過敏になってしまう時代ではありますが、僕はいつだってフィクションで現実に立ち向かう気持ちで映画を作っているのです。とは言え、難しく考えずに楽しんでいただければ幸いです。

『ウインターズ・レコード』

Winter's Record (will be) Happy Together/ 2013 / 26min

 

2012年に「バナナVSピーチ」という楽しげな企画に参加させていただきました。男性監督4人(バナナ)と女性監督4人(ピーチ)が4組のペアになり、主演に同じ男性と女性のキャストを招いて、短編映画を競作するという企画でした。こうして大ベテランの長谷川初範さん、モデルとして活躍中だったMeriiさんを招いて、この作品は生まれたのです。

 

主演俳優があらかじめ決められてるというのが当時の僕としては初めてのことだったので、脚本執筆には非常に悩みました。結果、撮影スケジュールが12月23〜25日になったことで「それならば思い切ってサンタクロースを出そう」という今思えば安直な決め方をしていました。僕の中で長谷川初範がサンタクロースの格好をするのって、カラーリング的に完全にウルトラマン80で燃えるぜ!と密かに興奮したりもしていました。

 

とは言え、自分の根底にあったのは本編の主人公であるフユの気持ちです。世間と相容れることが出来ず、恋をしてもその想いを打ち明けることなんかできるわけもなく、逆効果だとわかりながらついつい奇行に走ってしまう…。今まで同性や同年代のキャラクターに自分の想いを仮託したことはありましたが、女性に対してそれが出来たのは初めてでした。それもMeriiさんという役者が、このキャラクターの全てを受け止めて、吐き出し、表現してくれたからに相違ありません。低予算現場ということで、幾つかやりたいことを諦めようとした瞬間もあったのですが、そのたびにMeriiさんが助けてくれました。何度「ありがとう」を言っても足りない存在です。今は役者業から離れてるMeriiさんですが、今回の配信の件をお伝えした時にとても喜んでくれて、不覚にも僕は泣いてしまいました。

 

撮影は僕の作品をいくつも手がけてくれている伊集守忠くん。今回の再編集にあたって改めてカラー・グレーディングを施してくれました。録音は根本飛鳥くんとアミナカアキヒトくんです。

 

今回改めて過去作を見直したときに、この作品が妙に心に引っかかりました。作品と言うものは時代の空気を良くも悪くも反映してしまい、時として風化してしまうものもありますが、あの時に感じた引っかかりが、この作品と今の時代の空気がシンクロしていたことだとしたら、と願って止みません。お楽しみください。